鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(HOTな銘柄編) 鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(HOTな銘柄編)

鈴木一之の「HOTな銘柄、COOLな銘柄」2020年11月号(HOTな銘柄編)

さて、10月相場を取り巻く上記のような経済・社会環境をとらえた上で、株価の上昇率から見た物色テーマの特徴を以下のテーマごとに探ってまいります。

  • (1)環境関連株
  • (2)半導体、電子部品
  • (3)決算発表に連動した好決算企業
  • (4)コロナ特需で人気沸騰の「鬼滅の刃」関連
  • (5)バリュー株、景気敏感株

(1)環境関連株

環境関連株は10月相場で際立った値動きを示しました。
政治的にも大きな後押しがあったことが支援材料となりました。

ひとつはすでに述べましたが、菅首相が所信表明演説で述べた「2050年に温暖化ガスを実質ゼロ」にする方針です。
これを受けて再生可能エネルギー関連株が一斉に物色されました。

米大統領選でバイデン候補が掲げる政策のひとつに、パリ協定への早い時点での復帰と2兆ドルの環境投資も背景にあります。

直接的なところでは、レノバ(9519、上昇率第3位)、エフオン(9514、第21位)、圏外ですがイーレックス(9517、第142位)、ジャスダックのウエストHD(1407)です。
また間接的なところでは、日本電産(6594)に代表される電気自動車(EV)関連株です。

レノバ(9519)は太陽光発電からバイオマス発電、風力発電までオールマイティで手がける日本最大規模の発電事業者です。

レノバ(9519)

エフオン(9514)は省エネ支援から始まってバイオマス発電を手がける発電事業者です。

エフオン(9514)

イーレックス(9517)はバイオマス発電を中心に自社で発電する電力卸売・小売の事業者です。
今期も過去最高益が予想されます。

イーレックス(9517)

ジャスダックに上場するウエストHD(1407)は太陽光による発電設備とその設置工事を全国規模で展開しています。

ウエストHD(1407)

電力業界の設備投資に関連する銘柄としては、正興電機製作所(6653、第10位)の上昇も目につきました。同社は電力会社向けに変電設備を製造しています。
大株主に日立製作所(6501)九電工(1959)が名を連ねています。

正興電機製作所(6653)

電気の流れには直流と交流の2種類があります。
風力や太陽光などの自然エネルギーを利用して発電する場合、そこで流れる電気は直流です。

その電気を家庭や工場に送ったり利用するには交流に変換しなければなりません。その際に変電設備が必要になります。

自ら再生可能エネルギーのシステムも供給している正興電機は、今期の業績見通しを発表し、最高益を更新するとの良好な内容となったことから大きく上昇しました。

間接的に関わる銘柄としては、日本製鋼所(5631、第23位)もそのひとつです。
同社のリチウムイオン電池のセパレータ製造装置が評価されて、景気敏感株でもある機械セクターの中から独歩高に近い上昇を見せました。

日本製鋼所(5631)

水素ガスの供給量では日本最大の岩谷産業(8088、第24位)も値上がり上位に登場しました。

岩谷産業(8088)

ESG投資が全世界で3,000兆円を超える規模にまで拡大しました。
機関投資家は持続可能な社会を目指す企業のスタンスをまったく考慮せずにポートフォリオを組み立てることはできなくなりつつあります。
環境関連株はその対象範囲を拡大しながら、ますます物色の中心となってくることでしょう。

(2)半導体、電子部品

アップルから新型の「iPhone12」が発表され、世界的に人気を集めています。
歴代iPhoneの中でも初速ではかなりの好記録になると期待され、テクノロジー銘柄の株価が調整ムードの中にあって、アップルの株価は高値圏で堅調です。

ファーウェイへの禁輸問題に関しても、他のスマホメーカーには恩恵となって現れてくるという期待が先行しています。

それに関連して電子部品株の太陽誘電(6976、第34位)が穏当に人気を集めました。

太陽誘電(6976)

リストの圏外ですが、村田製作所(6981、第132位)、TDK(6762、第137位)、日東電工(6988、第144位)など、電子部品株の大手がそろってしっかりしました。

半導体関連株に関しては、東京エレクトロン(8035)レーザーテック(6920)は6-7月までの株価上昇が華々しかったために、10月相場での値動きは鈍いままにとどまっています。
日柄調整の渦中にある模様です。

それに代わって半導体の部材メーカーの中からは、プラスチック封止剤のイビデン(4062、第25位)、フォトレジストの日本ゼオン(4205、第40位)、圏外からもフォトレジストの東京応化工業(4186、第54位)などがしっかりと上昇しました。
イビデンは上場来高値を更新しています。

イビデン(4062)

検査装置のアドバンテスト(6857、第27位)も上昇が目立ちました。
第1四半期決算における今期の業績見通しの下方修正でストップ安まで売られた記憶は生々しいところですが、ファーウェイとの取引量に対する懸念も徐々に払拭されて、あらためて底入れ感から上昇に向かっています。

アドバンテスト(6857)

半導体関連株と言えば、サンケン電気(6707、第7位)の上昇が抜きん出ています。
同車のパワー半導体は機械類の電源部分に多く使用され、家電製品や電化の進む自動車搭載用として多用されます。

サンケン電気の今期の業績はいまだ厳しく、最終赤字転落は避けられないところです。
それでも個別の材料として、連結子会社である米国の「アレグロ・マイクロシステムズ社」が米国の株式市場でIPOしたことから、株式売却益など特別利益が上乗せして計上されるとの期待で大きく値上がりしています。

サンケン電気(6707)

(3)決算発表に連動した好決算企業

10月は3か月ごとの決算発表シーズンに当たります。
今回は9月末から10月半ばにかけて2月/8月決算企業の、主に小売セクターを中心に第2四半期決算が行われました。

小売セクターの決算動向は重要です。
個人消費のトレンドがダイレクトに現れます。
とりわけ現在は、コロナウイルスの影響でどの程度の影響が業績面に生じているのか、逆にダメージの少ない企業はどこか、回復の度合いはどうか、などが直接試されます。

注目を集めたのはファーストリテイリング(9983)です。
同社は小売セクターの時価総額トップで、常に世界展開を視野に入れています。
圏外ですが、株価は上昇率ランキングで第82位となりました。

8月決算のファーストリテイリングが10月15日に発表した通期の決算内容は、前期の営業利益は1493億円と▲4割以上の減益となりました。
それが今期の見通しでは+6割を上回る大幅な増益見通しを早くも打ち出して、コロナ危機以前の水準に肉薄するものとなりました。
ファーストリテイリングの株価は翌日から大きく上昇し、そこから上場来高値を更新する快進撃のきっかけとなっています。

同社の好決算見通しは、決して「コロナ特需」に沸いた結果ではありません。中国市場での伸びを前提に、あくまで自助努力で作り上げたものと見られます。
その点がマーケットでは力強く評価されているのだと推察されます。

ファーストリテイリング(9983)

それとは対照的なのが食品スーパーやドラッグストアです。
第1四半期に続いて第2四半期の決算も、驚くほどの好業績を発表した企業が数多く見られました。
しかしそれらの株価は、9月までのようにはプラス方向に反応しない事例も見られるようになりました。
ライフコーポ(8194)MrMaxHD(8203)ウエルシアHD(3141)などがその例です。

マーケットの視点は「コロナ特需」だけではなく、その先の企業独自の戦略や事業展開を見すえているととらえることもできます。

ライフコーポ(8194)

その点で、これまではネガティブな評価の広がっていた企業の中から、決算発表をきっかけに株価水準が見直される例が相次いでいます。
良品計画(7453、第16位)、西松屋チェーン(7545、第30位)、家電量販店のコジマ(7513、第17位)、そしてGenky DrugStores(9267、第42位)などがそれです。

良品計画(7453)

小売セクターに話題が及んだところで、10月相場で最もホットな話題のひとつとして、島忠(8184)に対するDCMホールディングス(3050)のTOB、そしてそれに続くニトリHD(9843)のTOB参戦が挙げることができます。

島忠(8184)

DCMホールディングス(3050)はホームセンターの大手です。
2006年にカーマ、ダイキ、ホーマックの上場3社が経営統合して発足しました。それが10月2日に家具大手の島忠に対してTOBを発表しました。

投資額は最大で1600億円、発行済株式総数の全株の取得を目指し、最低でも50%を取得するとしました。
買付価格は4200円です。
メディアで第一報が伝えられた9月18日の終値に45%のプレミアム(上乗せ)をつけて決められました。

かたや島忠は東京や埼玉を中心に60店舗を展開するホームセンターです。
若い世代に人気のイケアやニトリに押されて本業は苦戦を強いられていますが、借金はゼロで財務体質は万全です。
現金保有比率も多いことが特徴です。
しかし本業が苦しいために、株価は解散価値を下回ることが常態化していました。

DCMはその点に目をつけてTOBに乗り出すことを計画したのですが、当初からDCMのTOB価格の設定があまりにも低いのではないか、との指摘はマーケットで流れていました。

DCMホールディングス(3050)

それに対して10月20日に、家具最大手のニトリHD(9843)が島忠のTOBを検討していることが報じられました。
ニトリは「不況の時こそ業態を拡大するチャンス」との考えを常々持っており、近年は大都市への出店を加速させています。

しかしこれまで敵対的な買収を実施したことはありませんでした。

そのニトリが、DCMが先に手を挙げた島忠へのTOBに参戦を決めたのです。
報道ベースが先行していましたが、10月29日になってニトリによる島忠へのTOBが正式に発表されました。

ニトリによるTOB価格は5500円で、DCMの提案を1300円、3割上回る価格となっています。
買付は11月中旬から始められ、DCMのTOB期間が終了してから実施されることとなります。
島忠のTOBはまだ始まったばかりです。今後も第2幕、第3幕の展開が起こり得ると予想されます。

ニトリHD(9843)

日本の株式市場には豊富なキャッシュを有し、財務体質の良好な企業で販路も豊富、しかし売上げや利益の伸びがパッとしないという上場会社がたくさん存在します。

島忠のほかにも、東京ドーム(9681、第86位)にはアクティビストが株式を大量に取得して改革案を提出しています。
京阪神ビルディング(8818、第75位)に対してもアクティビストが株式の3割取得を目指してTOBを発表したりと、ここに来て企業の資産価値に着目した案件が相次いでいます。

日本の株式市場は世界のマーケットと比較して出遅れ感が強い分、支配証券としての株式の側面がまだ十分に通用すると感じられます。
今後もリアルマネーが日本のマーケットに流れ込んでくることになることでしょう。

(4)コロナ特需で人気沸騰の「鬼滅の刃」関連株

2020年秋は「鬼滅の刃」旋風が吹き荒れています。
10月16日(金)から映画館で劇場公開され、公開から3日間の興行収入は46億円に達しました。
観客動員は342万人にのぼり、いずれも過去最高となりました。

公開から10日間が経過した10月25日の時点ではさらに増えて、観客動員数は798万人、興行収入は107億円に達しています。

これまでの邦画の興行収入の歴代トップはスタジオジブリの「千と千尋の神隠し」で308億円です。
あの「千と千尋」でも公開から2週間の興行収入は56億円でした。「鬼滅の刃」は10日間で107億円とはるかに上回っています。

「鬼滅の刃」の魅力は作品自体の評価が高く、小学生から大人までが夢中になり、何度も映画を観に来るリピーターが多いそうです。
関連グッズが飛ぶように売れてこれはもう社会現象と言ってもよいでしょう。

キャラクター商品を販売しているエスケイジャパン(7608、第2位)は、「鬼滅の刃」関連グッズを大々的に取り扱っています。
映画の公開直後からストップ高を交えて株価は大きく値上がりしました。

エスケイジャパン(7608)

ジーンズメイト(7448、第9位)もTシャツやパーカー、バッグなど「鬼滅の刃」とのコラボ商品を広く展開しています。

ジーンズメイト(7448)

くら寿司(2695、第90位)は「GoToイート」に加えて、「鬼滅の刃」のコラボグッズが当たるキャンペーンで客数が増えています。

くら寿司(2695)

「鬼滅の刃」の破壊力は別格として、小売セクター以外でも決算内容のよかった企業には株価の変動が目立ちました。
業績モメンタムの強さが確認されたところにはストレートに買いが向かっています。

世界的な自転車パーツメーカーのシマノ(7309、第41位)、内食ブームで「こてっちゃん」のSFOODS(2292、第28位)、企業広報リリースのPR TIMES(3922、第14位)、遠隔会議システムのブイキューブ(3681、第15位)が好決算の発表をきっかけに株価が大きく上昇しました。
いずれもコロナウイルスの影響による特需と見てもよいかもしれません。

シマノ(7309)

家にいる時間が長くなり家庭ごみが出やすくなります。
プラスチックごみ処理のミダック(6564、第20位)もそうです。

ミダック(6564)

リモートワークは一過性のものではなく、社会に本格的に定着しつつあるようです。
若い世帯の中には住居を通勤に便利な都心部から、自然に接する機会の多い郊外に移す事例も全国的に増えています。

戸建て住宅を得意とする三栄建築設計(3228、第37位)は業績好調から株価が堅調に推移しました。
ジェイリース(7187、第18位)は家賃保証の仕組みを提供しています。
本社は九州にありますが、大都市を中心に全国でも展開しています。住宅関連は資材メーカーも含めて堅調な値動きとなっています。

三栄建築設計(3228)

(5)バリュー株、景気敏感株

10月相場のポイントはバリュー株にも見られます。
これまで優位に進んできた成長株(グロース株)との対比で、常に遅れを取っていたバリュー株が優勢さを取り戻しつつあります。

決算発表とも関連していますが、ツガミ(6101、第31位)、日野自動車(7205、第32位)などの自動車、機械セクターがその代表格です。

工作機械大手のツガミ(6101)は3月決算の企業です。
10月16日に第2四半期の増額修正を発表しました。
それまでは営業利益で21億円と、前年比で▲27.3%の減益見通しでした。
これを30億円へと+3.8%の増益見通しに引き上げました。中国市場で受注が増加しているのがその理由です。

ツガミ(6101)

同じようにトラック大手の日野自動車(7205)も、10月29日に通期の営業利益の見通しを20億円から30億円に引き上げました。前年実績の548億円と比べて▲96.3%から▲94.5%へと、まだ大きな減益予想となっています。
しかしこれまでよりも、先々の事業環境が見通せるようになってきたことが見通し引き上げにつながっています。

日野自動車(7205)

大紀アルミニウム工業所(5702、第39位)はアルミ合金で国内トップ企業です。
自動車業界向けにアルミダイカストの部品や、鋳物の部品となるアルミ合金を主力ビジネスとしています。
10月29日に第2四半期および通期の業績の上方修正を発表し、営業利益は従来の41.6億円(前年比▲41.6%)から65.2億円(▲15.5%)に引き上げました。

大紀アルミニウム工業所(5702)

これらの企業の増額修正に共通している点は、いずれも中国の自動車市場が急速に回復していることを背景としている点です。
すでに述べましたが、日本製鋼所、岩谷産業、サンケン電気の株価の回復も同じような背景があると考えられます。

10月の月間騰落率のランキングを拡大して、さらに下位の値上がり率上位銘柄を見てゆくと、商船三井(9104、第52位)、ルネサスエレクトロニクス(6723、第61位)、不二越(6474、第69位)などの社名が挙がっています。
これらも自動車産業に関わる銘柄です。

商船三井(9104)

これらの銘柄の復調は、マザーズ銘柄の上値が重くなっていることと無関係ではないように思います。
半年間にわたって買い進まれたグロース株がいったんピークを形成し、それに代わって低い位置にあったバリュー株に物色の流れが広がりつつあります。
この点が10月相場の最も大きな特徴でもあります。

図10月値上り率ランキング

図10月値上り率ランキング
鈴木一之

鈴木一之

株式アナリスト

1961年生。1983年千葉大学卒、大和証券に入社。
1987年に株式トレーディング室に配属。
2000年よりインフォストックスドットコム、日本株チーフアナリスト
2007年より独立、現在に至る。
相場を景気循環論でとらえるシクリカル投資法を展開。

主な著書
「賢者に学ぶ 有望株の選び方」(2019年7月、日本経済新聞出版)
きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ」(2013年7月、日本経済新聞出版社)

主な出演番組
「東京マーケットワイド」(東京MXテレビ、水曜日、木曜日)
「マーケット・アナライズplus+」(BS12トゥエルビ、土曜13:00~13:45)
「マーケットプレス」(ラジオNIKKEI、月曜日)

公式HP
http://www.suzukikazuyuki.com/
Twitterアカウント
@suzukazu_tokyo

呼びかける時は「スズカズ」、「スズカズさん」と呼んでください。

当コラムは投資の参考となる情報提供を目的としており、特定の銘柄等の勧誘、売買の推奨、相場動向等の保証等をおこなうものではありません。
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