急成長する大国 インドに投資するという選択
ここ数年、以前にも増して世界の投資家がインドへ熱い視線を送っています。なぜインドに注目が集まっているのか、その理由は主に3つあります。
人口増加と若年層の多さ
インドは2023年に人口で中国を抜き、世界一の人口大国となりました。その数は14億人を超え、今後もしばらく増加が続くと予想されています。
特に注目すべきは人口構造です。平均年齢は29歳と非常に若く、世界の主要国の中でも突出しています。日本の平均年齢は49歳、中国は40歳(※1)であることを踏まえると、インドがいかに若い国かがわかります。
生産年齢人口(15歳から64歳の人口)の割合が高いため、働く世代が多く、国の経済成長が加速しやすいとされています。
豊富な労働力は産業の成長を支え、中間所得層の拡大を通じて消費市場の拡大につながります。自動車、住宅、教育、旅行、医療など、多岐にわたる分野で需要が伸びることが期待されているのです。
GDPの高成長
インドの経済成長も、人口動態と並ぶ大きな魅力です。
国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(2025年7月)の予測では、2025年と2026年のインドの成長率(実質GDP)はともに6.4%になるとされ、主要国の中でも際立った高さです。
成長のけん引役となっているのはIT産業です。インドは「世界の頭脳」と呼ばれるほど優秀なエンジニアやプログラマーを多数輩出しており、米国のGAFAをはじめとするグローバル企業でもインド人経営者や技術者が活躍しています。
インド国内では、ソフトウェア開発やシステム運用を担うITサービス産業が急成長し、ICT(情報通信技術)サービス輸出額は2024年に1,777億4,544万ドルに達しました(※2)。これは世界1位の規模であり、先進国企業にとってインドのITサービス産業は不可欠な存在になっているといえます。
また、インドはジェネリック医薬品の世界的供給拠点としても知られ、医薬品輸出額は世界でもトップクラスです。さらに、製造業やスタートアップの分野でも新しい企業が次々に誕生しており、経済の多様化が進んでいます。
<実質GDP成長率見通し>(前年比、%)

2025年以降は予測値。
(出所)IMF「 IMF2025年7月 世界経済見通し」を基に筆者作成
モディ首相率いる改革とインフラ投資
インドの成長を後押ししているもう一つの要因は、政治の安定と改革の推進です。
2014年に就任したモディ首相は、「メイク・イン・インディア」政策を掲げ、製造業の強化と国内雇用の拡大を目指した産業振興策を進めてきました。これにより、自動車や電機、通信機器などの製造業の生産拠点が増え、海外の多国籍企業からの投資も活発化しています。
また、モディ政権はデジタル化の推進にも力を入れています。国民一人ひとりに固有の識別番号(インド版マイナンバー)「アーダール」を導入し、銀行口座や社会保障と連携させることで、すべての人が必要な金融サービスを利用できる状態を進めました。 これにより、以前は銀行口座を持っていなかった人々も金融サービスを利用できるようになり、電子決済やネットバンキングの普及が急速に進んでいます。
さらに、道路や鉄道、港湾、エネルギーなどへのインフラ投資も積極的に行われています。企業活動が活発化し、外国からの直接投資も増加しています。
モディ首相の政策は一貫しており、政治的リスクが高いことが懸念される新興国であっても、こうした安定した政策は投資家にとって安心材料となっています。
インドに投資信託で投資する方法
さて、そんなインドに投資をしたい場合は、どのような方法があるでしょうか。
海外の個人投資家が、インドの個別株式を直接購入することは原則できません。その代替手段として、米国預託証券(ADR:American Depositary Receipt)を通じて、投資する方法があります。
ADRとは、米国の証券取引所に上場している証券で、外国企業の株式を米ドル建てで取引できる仕組みです。インド企業の株式もADRとして上場しており、米国市場を通じてインド株に投資することが可能です。
しかし、インドのような新興国への投資は、高いリターンを期待できる可能性がある一方で、高いリスクも伴います。そのため、まずは少額から複数の銘柄に分散投資ができる投資信託が適していると考えられます。
インドが投資対象となっている投資信託には、次のようなものがあります。
インド株に投資するインデックス型投資信託
インドの株式市場を代表する株価指数に連動して運用されるインデックスファンドです。
代表的なベンチマークとしては、インドのムンバイにあるボンベイ証券取引所(BSE:Bombay Stock Exchange)のSENSEX指数(大型株30銘柄で構成)や、ナショナル証券取引所(NSE:National Stock Exchange of India)のNifty50指数(主要50銘柄で構成)が挙げられます。これらの指数はインド経済の成長を反映する指標として国際的にも広く利用されており、インデックス型投資信託を通じて投資することで、広く分散投資ができインド市場全体の平均的なリターンを獲得することが可能です。さらに、インデックス型投資信託は低コストで分散投資が可能です。
インド株に投資するアクティブ型投資信託
アクティブ型投資信託は、運用会社のファンドマネージャーが銘柄選択や投資配分を行い、ベンチマーク指数を上回るリターンの獲得を目指します。
インド市場では、特にIT、医薬品、金融、不動産といった成長が見込まれるセクターへ投資する投資信託もあります。インデックス型に比べて信託報酬などのコストは高めですが、的確なマクロ分析や企業調査に基づくセクター選択・銘柄選定が成功すれば、指数を大きく上回るリターンを獲得できる可能性があります。
ただし、成果はファンドマネージャーの判断に大きく依存するため「運用者リスク」が存在します。
新興国の株式に投資するインデックス型投資信託
インド単独ではなく、中国・ブラジル・インドネシアなど他の新興国と一緒に投資するタイプです。代表的なものは「MSCIエマージング・マーケット指数」に連動するファンドです。この指数は、新興国24カ国の時価総額の約85%を占める約1,189銘柄(2025年8月現在)を投資対象としています。
同指数に連動することを運用方針とする「eMAXIS Slim 新興国株式インデックス」の国別の組み入れ比率を見るとインドは16.6%です。(2025年7月31日月報 より)
分散投資の効果はあるものの、インド以外の国・地域への投資に関心がない場合はインド単独の投資信託を選ぶ方がよいでしょう。
<eMAXIS Slim新興国株式インデックス 組入上位の国・地域>

※2025年7月31日 月報より筆者作成
新興国の株式に投資するアクティブ型投資信託
新興国の中で有望と見られる国やセクターを選別して投資するタイプです。
ファンドにより、インドへの投資比率は15%から20%など幅があり、中国や中南米に重点を置く場合もあります。運用者の判断が色濃く反映されるため、どの国を重視しているのか確認が必要です。
<インド株に投資する投資信託の一例>

※上記一覧は、NISAのつみたて投資枠または成長投資枠で購入できる投資信託です。
※特定の銘柄に対する投資勧誘を意図するものではなく、あくまで銘柄選びの参考までに筆者が作成しています。適合性、有用性、正確性、完全性を担保するものではございませんので、あらかじめご了承ください。
インドの投資信託を始める前に押さえておきたいポイント
インドは成長期待が大きい一方で、政治的・社会的・地政学的な新興国特有のリスクがあります。投資を始める前に、以下の点も踏まえておきましょう。
インド特有のリスク
急速な成長の裏には、地域格差や教育・所得の不平等といった課題が残されています。カースト制度の影響も根強く、社会的な対立や暴動につながるリスクも無視できません。市場の不確実性や短期的な株価の変動の可能性はあります。
ファンドの手数料を確認
インドの投資信託は、現地のキャピタルゲイン課税(売却益課税)など、税制面で追加コストが発生します。これらは「その他の費用」として経費率に含まれます。手数料については、信託報酬だけでなく、その他費用も含めた総経費率もあわせて確認しましょう。
投資額と時間の分散
インドの成長を期待するあまり、一度にまとまった金額を投資するのは控えましょう。定期的な積立投資などで時間分散を行うことで、短期的な株価変動に左右されず、長期的な成長を投資戦略に取り入れやすくなります。
インドは「人口増加」「高成長」「改革推進」という強力な成長ドライバーを備えた国です。ただし、資産のすべてを託すのではなく、あくまでポートフォリオの一部にとどめるのが現実的です。インドに関連した投資先を検討する場合は、長期的な分散投資の一助としてインドの成長を取り込むのが望ましいでしょう。




