執筆者:カブヨム編集部
IPOとは?
IPOとは「Initial Public Offering」を省略した用語です。IPOを実施するということは、企業が初めて株式を一般公開することを意味し、これにより一般の投資家もその企業の株式を購入することが可能になります。
企業はIPOを通じて、成長資金を集め、事業展開のためのリソースを確保しやすくなるでしょう。また、他にも企業としての知名度を向上させる、投資家や取引先からの信頼を得る…といったことも大切な要素です。
これらの目的を達成するために、企業は計画的にIPOを準備する必要があります。
IPOの仕組みと流れ
企業がIPOを実施するプロセスは複雑ですが、一般的には次のような流れで進行します。
- 1. 引受業者の選定:まず、企業は、IPOをサポートするために高い経験と信頼性を持つ証券会社を引受業者として選定します。
- 2. 規制当局への申請書類の提出:企業は次に、引受業者とともに、IPOに必要な詳細な申請書類を金融庁や証券取引所に提出します。
- 3. 投資家向けのロードショー開催:ロードショーは、企業が投資家に対して成長戦略や財務状況を説明する場です。これを実施することで、IPOへの投資家の興味を喚起し、需要を高めることを目的としています。
- 4. ブックビルディング:ブックビルディングは、引受業者がIPOの公募価格を決定するためのプロセスであり、機関投資家やファンドマネージャーの需要を調査します。通常3日から1週間の期間で設定され、需給バランスを考慮して適正な公募価格を決定します。
- 5. 公募価格の発表:ブックビルディングの完了後、引受業者が公募価格を正式に発表します。この価格は通常、IPO取引の開始前日に発表されます。
- 6. 市場における株式の売買開始:公募価格の発表後、一般市場での株式取引が開始されます。これにより、企業は上場企業としての第一歩を踏み出し、一般投資家による売買が可能となります。
投資家にとってのIPO投資のメリット・デメリット
IPO銘柄への投資は多くのメリットがあると同時に、デメリットもあります。
IPO投資のメリット
IPO投資の大きな魅力は、高いリターンを獲得するチャンスがあることです。新しい企業が上場したばかりの初値で株式を購入できれば、株価が急上昇する波に乗ることで、短期間で利益を得る可能性があるでしょう。このため、IPO銘柄は多くの投資家から注目を集めています。
また、IPOを通じて新たに市場に登場する企業は、多くの場合、新しいテクノロジーや事業分野で活動しており、成長の可能性を秘めていると期待されていることが多いでしょう。
IPO投資のデメリット
IPOは通常、多くの投資家が抽選に参加するため、申込みを行った全ての人が購入できるわけではありません。希望があっても購入機会を得られないリスクがあります。
また、IPO銘柄は上場直後の株価変動が非常に激しいことが一般的で、価格が不安定になる可能性があります。そのため、短期間で株価が下落するリスクも認識しておく必要もあるでしょう。更に、歴史的なパフォーマンスデータが不足しているため、企業がどの程度安定して成長するかを予測するのが難しい場面も出てきます。
このように、IPO投資には大きな利益の可能性がある一方で、リスクも伴うため、慎重なリサーチと分析が求められるのです。
投資家は注目!IPOの「ロックアップ」とは?
ロックアップとは、IPO後に株主が持ち株を売却できない期間や価格の制限を指しています。株価の急激な変動を防ぐための措置であり、一般的には90日から180日程度続きますが、具体的な期間は銘柄ごとに異なります。
ロックアップが解除された後、大量の株が市場に出回るケースがあり、その結果株価が下がる可能性もあります。そのため、投資家はこの期間についてしっかり理解しておくことが重要でしょう。ロックアップのスケジュールを事前に把握することで、より冷静かつ戦略的な投資判断ができる可能性が高まります。
制度ロックアップと任意ロックアップの違い
ロックアップには大きく分けて2種類あり、上場規則に基づき明確に定められた「制度ロックアップ」と、企業や投資家の自主的な判断に基づいて行われる「任意ロックアップ」に区別されます。
制度ロックアップは、“最低限のルール”としての性格が強く、一方で任意ロックアップは“追加的・補完的な措置”としての性格があるため、両者を併用するケースも多いです。
<制度ロックアップと任意ロックアップの違い>
| 種別 | 制度ロックアップ | 任意ロックアップ |
|---|---|---|
| 概要 | 金融商品取引所の規則に基づき、一定の株主に対して義務付けられる売却制限 | 引受証券会社との契約に基づき、株主が自主的に同意する売却制限 |
| 根拠 | 東証などの上場規則 | 引受契約や上場準備における合意事項 |
| 目的 | 上場後の株価の急落を防ぎ、投資家保護を図るための制度的措置 | 株価の安定性をさらに高め、投資家の信頼を強化するための補完的措置 |
| 対象者 | 主に大株主(上場前の主要株主など) | 経営陣、ベンチャーキャピタル、その他の既存株主など |
| 期間 | 通常180日間など、取引所が定める | 90日、180日など、契約により柔軟に設定可能 |
| 解除条件 | 原則として期間満了まで売却不可 | 価格条件付きで途中解除されることもある(価格ロックアップと併用) |
※上の表は当社が作成
期間ロックアップと価格ロックアップの違い
さらに、任意ロックアップにおいては、期間的な条件(期間ロックアップ)のみならず、「価格」の条件でも付与されるケースがあります(価格ロックアップ)。
期間と価格の両方にロックアップ条件が設定されている場合、いずれかの条件を満たせばロックアップが解除されると理解しておきましょう。
<期間ロックアップと価格ロックアップの違い>
| 種別 | 期間ロックアップ | 価格ロックアップ |
|---|---|---|
| 概要 | 一定期間、株式を売却できない | 株価が一定水準に達するまで、株式の売却が制限される |
| 目的 | 上場直後の需給バランスを安定させ、株価の急落を防ぐ | 株価の健全な成長を促し、過度な売り圧力を抑える |
| 解除条件 | 設定された期間の経過 | 株価が設定水準に達した時点で解除(または段階的に解除) |
| 解除条件の例 | 上場日~90日間・180日間 など | 公開価格の1.5倍・2倍 など |
| 備考 | 証券会社や取引所のルールに基づき設定されることが多い | 価格ロックアップは、任意ロックアップの一形態であり、『解除条件付きロックアップ』とも呼ばれる |
※上の表は当社が作成
IPO後の成功・失敗を握る要因
IPOは企業にとって一大イベントですが、上場した企業のすべてがその後成功するわけではありません。
よく知られた成功事例としては、GoogleやAppleがあります。これらの企業は上場後に大きな成長を遂げ、投資家にとっても魅力的な銘柄となりました。
日本企業にも多くの成功例があります。例えばメルカリ(4385)は、2018年に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場し、国内初のユニコーン企業(設立から10年以内、企業評価額が10億ドル以上、未上場のスタートアップ企業)として注目を集めました。上場後も積極的な海外展開や新規事業への投資を進め、成長を続けています。
一方で、過去の市場で評価が高まらなかった企業も少なくありません。IPOの成功・失敗を握る要因としては、次のようなものが挙げられます。
- 経営陣の力量
- 業界の競争状況
- 市場の経済状況
さらに、厳しい話ではありますが、市場動向もIPOの結果に大きく影響します。例えば活況な相場においては企業価値が上昇しやすく、IPOが成功しやすくなる要因のひとつと言えます。しかし、経済的な不安が高まっている場合は、IPOが延期または中止されることもあるでしょう。
まとめ:IPOを正しく理解して投資判断に活かそう
IPOは、企業にとっても投資家にとっても多くの可能性を秘めています。しかし、同時に相応のリスクも伴うという点も正確に理解しておかねばなりません。
そのため投資家がIPO銘柄を投資対象に加える場合、しっかりとした事前調査と、状況に応じた適切な投資判断が求められます。ロックアップ解除後の大きな株価変動もある程度予測しつつ、慌てずに対処することが大切です。




